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仙台地方裁判所 昭和46年(行ウ)7号 判決

原告 宮城日立家電株式会社

被告 仙台中税務署長

訴訟代理人 榎本恒男 首藤定雄 千葉嘉昭 山田昇 ほか三名

主文

一  被告が原告に対し、昭和四五年六月二四日付で原告の昭和四三年五月一日から昭和四四年四月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正処分のうち、所得金額三二八〇万〇四八三円をこえる部分を取り消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

主文と同旨

二  被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二原告の請求原因

一  本件更正処分等の経緯

原告は、家庭電気器具類の販売を業とする株式会社であり、法人税の確定申告書を青色申告により提出するにつき所轄税務署長の承認を受けていたものであるが、昭和四四年六月二八日付で被告に対し、原告の昭和四三年五月一日より昭和四四年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税につき、所得金額を三二七一万〇三八三円とする旨の申告をしたところ、被告は原告に対し、昭和四五年六月二四日付で、原告の右申告には新株引受権の受贈益一九四〇万円の計上もれがあり、また建物圧縮損九万〇一〇〇円を誤つて計上しているとして、これらを所得に加算し、本件事業年度の所得を五二二〇万〇四八三円とする旨の更正決定(以下「本件更正処分」という。)をし、同年六月二七日原告に対しその旨通知した。そこで、原告は、同年八月一四日仙台国税不服審判所長に対し審査請求をしたところ、同審判所長は昭和四六年三月三一日これを棄却する旨裁決し、同裁決謄本は同年四月一六日原告に送達された。

二  本件更正処分の違法事由

しかしながら、本件更正処分は、次の理由により違法である。

1  更正の理由附記の不備

法人税法(以下「法」という。)一三〇条によれば、青色申告書に係る更正の場合には、その更正通知書に理由を附記すべきこととされているが、本件更正通知書には、単に「株式会祉三和商会の増資にあたり取得した二〇万株に対する新株引受権一九四〇万円は受贈益と認め益金に加算します。」とあるだけであり、その金額がいかなる根拠に基づき算出されたものか、またどうして受贈益になるのか、その法的根拠が奈辺にあるのか等、全く明らかにされていないのであるから、右記載をもつてしては法の要求する理由附記とはいえないのである。なお、仮に、更正通知書に十分な理由附記がなされていなくとも、審査決定の段階でその理由を、補充すれば更正は違法でないとしても、行政処分の違法性判断の基準時が処分時であることや、審査裁決書の内容は全く支離滅裂で更正の理由を具体的に附加したものとは認め難いことから、結局本件更正処分においては、法の要求する理由附記の不備を満たしたものとはいえない。してみると、本件更正処分は、法一三〇条の規定に反し、更正通知書に更正の理由を附記しない違法があるというべきである。

2  新株引受権受贈益認定の違法性

被告が、新株引受権の受贈益一九四〇万円の計上もれがあるとして、これを本件事業年度の所得に加算した処分には、次のような違法がある。

(一) 原告は、本件事業年度において、株式会社三和商会(以下「三和商会」という。)が公募の方法により新株を発行した際、これに応募して二〇万株を引き受け、払込期日である昭和四四年三月一五日に一〇〇〇万円(一株につき五〇円)を払い込んで、右株式二〇万株を取得した。

(二) ところが、被告は、原告の右新株の取得は形式的には、公募の方法によつたものの、実質的には第三者の新株引受権に基づくものであるから、その取得価額は、法人税法施行令(以下「施行令」という。)三八条一項二号の規定によつて算定すべきであるとし、新株発行会社である三和商会の右払込期日における株式の価額を一株当り一四七円と算定し、これと右払込金額五〇円との差額九七円に、原告が取得した株式二〇万株を乗じた一九四〇万円が新株引受権の価額であるとして、これを原告の本件事業年度の益金に算入した。

(三) しかしながら、三和商会の新株発行はすべて公募の方法によつたもので、原告が三和商会より実質的にせよ新株引受権を付与された事実はないから、原告が取得した新株二〇万株の取得価額は、施行令三八条一項一号を適用し、その払込金額である一〇〇〇万円とすべきであるのにかかわらず、被告が右取得価額の算定につき施行令三八条一項二号を適用したのは違法である。

(四) のみならず、被告は、非上場株式で気配相場もない三和商会の株式の価額を算定するに当り、法人税基本通達にその評価方法に関する定めがあるのにこれを無視し、ことさら受贈益を捻出する意図のもとに、相続税財産評価に関する基本通達(以下「財産評価通達」という。)によつてこれを評価算定しているが、財産評価通達は、相続税、贈与税を計算する場合の相続、贈与財産の評価方法に関する通達であつて、これをいわゆる企業課税としての法人税の所得計算をする場合の基準とすることは不合理である。本件更正処分はこの点においても違法である。

三  よつて、原告の本件事業年度法人税の所得金額は、前記確定申告額三二七一万〇三八三円に、原告が誤つて計上した建物圧縮損相当分の九万〇一〇〇円を加算した三二八〇万〇四八三円が正当であるから、本件更正処分のうち右金額をこえる部分の取り消しを求める。

第三請求原因に対する被告の認否及び主張

一  請求原因に対する認否

請求原因事実のうち、同一の事実、同二の2の(二)の事実、同二の2の(四)の事実中被告が財産評価通達によつて三和商会の株式の価額を算定したことは、いずれも認めるが、その余の主張事実は否認する。

二  被告の主張

1  更正の理由附記について

(一) 原告の本件更正通知書に附記した理由が不備であるとの主張は、昭和五二年一月一七日の当審第一一回口頭弁論期日において、初めて主張されたものであり、本件訴訟はすでに準備手続を経ているものであるから、民事訴訟法二五五条によつてもはやその主張は許されないものである。

(二) 仮に、原告の右主張が許されるとしても、本件の場合は附記すべき理由の程度を充足している。すなわち、青色申告制度は、正しい帳簿慣行の確立を基礎とする合理的な申告納税制度を実現するために、納税者に公正妥当な会計方法に基づく帳簿書類の整備、記録及び保存を義務づけるものであり、かかる記帳義務の代償として、納税者に対し、所得計算上及び課税手続上一定の特典(優遇措置)を付与するものであり、また、一般に法が行政処分に理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服の申立に便宜を与える趣旨に出たものであるが、どの程度の記載をなすべきかは、処分の性質と理由附記を命じた各法律の規定の趣旨、目的に照らしてこれを決定すべきである。しかして、青色申告者に対する更正理由の附記の制度は、右に述べたように、申告者に対し記帳義務を課していることの反面として認められる特恵である以上その理由は、原則として、納税義務者にその備付けと記帳が義務づけられている一定の帳簿、書類との関連において、いかなる理由によつて、いかなる金額を更正するかを示し、不服の申立をなすべきか否かの判断資料を与え得る程度に記載することをもつて足るというべきである。ところで、原告は、新株引受権の評価の根拠、受贈益となる法的根拠等の明記を欠いている旨主張するが、更正に至つた理由及びその法的根拠については、本件更正通知書に、更正の対象となつた新株引受権を特定した上、その価額は原告が贈与を受けたものと認められるから、益金に加算する旨を示しているのであり、右附記理由は、右価額が法人税法上の「益金」に該当する旨の法的根拠をも含めて、更正に至つた理由を明確に記載しているのであり、また新株引受権の価額についても、「新株引受権一九四〇万円」なる表現は、もともと株式の価額は客観的事実関係に属し、これを認定する者の考え方いかんによつて変わる性質のものではないから、かかる表現によつて、前記理由附記の趣旨は十分に満たされているというべきであり、それ以上に時価算定基準等の資料の明記までも要求することは、附記すべき理由の程度として明らかに過大な要求というべきである。もつとも「資料を摘示して」根拠を明記すべき旨の判例(最二小判昭和三八年五月三一日民集一七巻四号六一七頁)もあるが、これは理由附記の一場合として、資料を摘示することを要する場合もあることを判示したにとどまり、あらゆる場合に資料を摘示することを要する旨を判示したものではなく、本件におけるような、一回限りの取引に関するもので、しかも、帳簿書類に記載された取引の事実を否定するのではなく、単にその取引について税法上の法的評価を異にするにすぎない更正の場合には、右判示のような厳格な理由附記を必要としないというべきである。すなわち、本件のように納税義務者の帳簿書類の記載が虚偽架空のものであるというのではなく、その帳簿書類に基づく申告書の法人税額の計算に誤りがある場合であつて、このような場合には、帳簿の記載自体はその税法上の法的評価の正当性まで裏付けているものではないから、帳簿の記載以上に信憑力のある資料を摘示する必要はなく、その理由として処分の計数的根拠を明示してさえすれば、法の趣旨を全うすることができるからである。これを本件についてみれば、原告は、三和商会の増資による新株発行に際し、同会社から二〇万株に相当する新株引受権の贈与を受けながら、これを全く帳簿に計上していないのであるが、それが無償の取引であることからすれば、原告において、これを帳簿に計上しなかつたことにも無理からぬ点があるものの、税法的評価においては、右受贈益も法人税法上益金を構成するものであるところから、被告はこれを更正の対象としたのである。しかも本件新株引受権の価額についても原告の帳簿上には格別依拠すべき価額はなんら記載されていないのであるから、被告の更正処分に帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示し得べくもないのである。従つて、本件更正の理由附記は、なんら違法ではないというべきである。

2  新株引受権受贈益の認定について

(一) 新株引受権の付与について

本件課税処分は、原告において三和商会が発行した新株二〇万株を払込により取得したことに対してなされたものであるが、三和商会の右新株発行は、形式的には公募の方法によつたものの、実質的には株主以外の者に対し新株引受権を与える方法でなされたものであつて、原告は右新株引受権に基づき、新株二〇万株を取得したものである。

(1) 三和商会は、昭和四四年一月二〇日開催の臨時株主総会において、発行予定株式総数を三二万株から九六万株に増加すること、新株二四万株を発行すること、新株は額面(五〇円)かつ普通株とし、発行価額は五〇円とする旨の特別決議をし、次いで、同月二二日開催の取締役会において、新株二四万株を額面五〇円で公募により発行すること、払込期日を同年三月一五日とする旨の決議をし、同年二月二八日原告に対し二〇万株を、同月中に三和商会の役員及び従業員らに対し二万二〇〇〇株を、同年三月一四日三和電機商事株式会社(以下「三和電機商事」という。)に対し一万八〇〇〇株を、それぞれ割当て、払込期日までにそれぞれ払込を得た。

(2) ところで、三和商会と原告及び三和電機商事との間には、右臨時株主総会の日の数日前に新株発行に関する三和商会の株主総会及び取締役会の決議の成立を条件として、三和商会が原告及び三和電機商事に対し、特に有利な発行価額をもつて新株を割当てる旨のいわゆる新株引受権付与についての合意がすでになされており、割当株式数及び発行価額についても決定されていたのである。このことは、次の事実からも明らかである。すなわち、新株の発行会社が、発行会社の役員、従業員、関係会社、取引先等縁故関係にある特定の第三者に対し、新株を割当てる場合(縁故者割当)は、これらの者に対し特に有利な発行価額で新株引受権を与えるのが一般的であると考えられるところで、三和電機商事は、昭和三二年七月二日に三和商会の電機機器材料等の販売部門を分離して設立された法人で、三和商会の本件新株発行当時、その発行済株式総数の五三パーセントを三和商会が所有するいわゆる三和商会の子会社であり、また、原告は、昭和三六年四月二五日に三和電機商事の家庭電気器具部門を更に分離して設立された法人で、本件新株発行当時、その発行済株式総数の五四パーセントを三和電機商事が所有するいわゆる三和商会の孫会社で、いずれも法二条一〇号所定の同族会社であつて、三和商会の主宰者である藤森淳一の弟藤森恒雄が両会社を主宰している。そして、前記のように、三和商会の本件新株発行数二四万株のうち、二一万八〇〇〇株を原告及び三和電機商事が払い込み、その余の部分は三和商会の一部役員等が払い込んでいるのである。

(3) 三和商会の前記臨時株主総会における新株発行に関する特別決議は、商法二八〇条ノ二、二項所定の株主以外の者に対し特に有利な発行価額をもつて新株を発行する旨の特別決議にあたる。なぜならば、三和商会は、前記のようにすでに新株引受権付与契約を締結していたものであり、また新株の発行は、株主以外の者に対し特に有利な発行価額をもつて発行する場合を除き、定款に特別の定めがない限り、取締役会の決議で事足りるところ、三和商会の定款には新株の発行を株主総会の決議事項とする旨の定めがないにもかかわらず、三和商会はあえて臨時株主総会を開催し、そこで前記のように新株の発行に関する特別決議をしているからである。

以上述べたところによれば、三和商会は、本件新株発行にあたり、原告及び三和電機商事に対し、特に有利な発行価額で新株引受権を与えたことが明らかである。

(二) 施行令三八条一項二号の趣旨と新株引受権

(1) 施行令三八条一項二号は、発行法人から新株の引受権その他これに準ずるもの(新株引受権という。)を与えられた場合(株主として与えられた場合を除く。)における当該新株引受権に基づく払込により取得した有価証券はその有価証券の当該払込に係る期日における価額をもつて取得価額とする旨規定している。その趣旨は、新株引受権に基づき新株の有利発行が行なわれた場合は旧株の含み益が、新株の取得により新株引受権者である第三者に移転するから、新株の取得価額をその株式の払込期日における時価と規定し、払込価額と時価との差額(新株引受権の価額)を受贈益(法二二条二項所定の益金)として、これに課税することとしたものである。

(2) 新株引受権とは、新株が発行される場合に、その新株を優先的に引き受ける権利であつて、法律上当然発行価額などについて有利な待遇(例えばプレミアム付発行における額面割当)を受ける権利ではない。そこで、商法は、従来株主以外の者に対し新株引受権を付与する場合は、発行価額その他の発行条件が有利であるか否かにかかわらず、常に株主総会の特別決議を必要としていたが、いわゆる証券会社の買取引受に関し議論を呼び、実際例では発行価額の点でも有利な取扱をしていることから、問題は第三者に対し新株引受権を与えるか否かでなく、第三者に対し有利な発行価額をもつて新株を発行するか否かであるとされ、昭和四一年の商法改正において、株主以外の者に対し特に有利な発行価額をもつて新株を発行する場合は、それが第三者に対し新株引受権を与えるか否かにかかわらず、株主総会の特別決議を必要とすることに改められた。右改正は、株主以外の者に対する新株引受権を発行価額の面からとらえてその適正を期したものと解されている。

(3) ところで、施行令三八条一項二号の規定は、昭和四一年の商法改正の際に格別改正を加えられることなく現在に至つているが、右規定の趣旨及び新株引受権に関する右商法改正の経緯にかんがみれば、右規定は、新株引受権付与の方法により特に有利な発行がなされる場合はもとより、新株引受権付与の方法によらないでもそれが特に有利な発行価額でなされる場合これに対しても適用されるものと解するのが公平課税の原則からみて相当である。

右に述べたところから、仮に原告が本件新株発行において、新株引受権を与えられていなかつたとしても、原告は特に有利な発行価額で新株を引き受けこれを取得している以上、右規定の適用をみることは当然である。

(三) 新株引受権の価額の算定について

被告が、原告の本件新株引受権の価額(時価と払込金額との差額)を一株当り九七円と算定した根拠は、次のとおりである。

(1) 三和商会は、農機具を販売し相当の利益をあげている経営良好な法人であつて、その株式は上場されておらず、気配相場もなく、正常な取引に基づく売買例もないものであるが、右株式につき経済的価値を考えることができる以上、時価とすべき一定の価額を算定することは可能である。このような株式の評価について、施行令三八条一項二号に関する国税庁長官通達(昭和四〇年一一月三〇日付直審(法)八四の五九及び昭和四四年五月一日制定前の法人税基本通達一三七)は、「その株式を所有している法人の事業年度終了の日又は同日に最も近い日における発行法人の事業年度終了の日における一株当りの発行法人の純資産価額等を参酌して通常取引されるであろうと認められる価額」によるべきものと規定するのみで、特に具体的な算式等を示していない。ところで、一般に、非上場株式で気配相場のない株式の評価方法には、〈1〉類似業種比準価額方式、〈2〉純資産価額方式、〈3〉配当還元方式があるが、財産評価通達は、評価会社の経営規模の大小、株主の支配権の有無に応じ、次のように定めている。

(イ) 同族株主の取得した株式について 〈1〉上場会社に準ずる大会社の場合は、もし当該株式を上場したならばどのような株価となるかという上場株式とのバランスに着目し、評価会社と事業の種類が同じであるかもしくは類似する複数の上場会社の株価の平均値に、一株当りの配当金額、利益金額、純資産価額を比準して株価を評価する類似業種比準価額方式、〈2〉個人企業に準ずる小会社の場合は、その同族株主は企業そのものを財産として所有する個人事業経営者と実質的な差異のないことに着目し、評価会社の一株当りの純資産価額をもつて株価を評価する純資産価額方式、〈3〉中会祉の場合は、評価会社の総資産価額又は取引金額の規模に応じて定められた一定の割合をもとに、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の併用方式による。

(ロ) 非同族株主の取得した株式については、利益配当がどの程度期待できるかということが、主要な価値判断要素と考えられるところから、〈1〉上場の可能性のない小中会社の場合は、配当金を一定の利率で還元して元本たる株式の価額を求める配当還元方式、〈2〉大会社の場合は、将来の上場可能性とともに非上場である現状をも考慮し、配当還元方式と類似業種比準価額方式の併用方式によることとしている。

従つて、財産評価通達による評価方法が、前記国税庁長官通達の趣旨にも副い客観的で合理的なものと考えられる。

(2) そこで、被告は右財産評価通達に基づき、三和商会の事業規模を中会社とみなし、類似業種比準価額方式と純資産価額方式の双方を基として、株式の価額及び新株引受権の価額を、次のとおり計算した。

(イ) 一株当りの純資産価額三二五円

本件株式の評価時期である昭和四四年三月一五日(新株払込期日)の直前事業年度末の昭和四三年六月三〇日における三和商会の純資産価額は、総資産価額四億六六八六万三〇〇〇円から対外債務三億八八八四万三〇〇〇円を控除した七八〇二万円であつて、これを発行済株式総数二四万株で除して得た額三二五円が一株当りの純資産価額である。

(ロ) 類似業種比準価額一六四円

類似業種比準価額とは、類似業種である上場会社の発行株式の一株当りの〈1〉配当金額、〈2〉利益金額及び〈3〉純資産価額(三要素)を評価会社のそれぞれと対比参酌した割合を、類似業種の上場会社の取引相場価額(評価日を含む月の毎日の最終価額の月平均額)に乗じて得た額であつて、その具体的な算式と計算は別紙記載のとおりである。

(ハ) 株式一株当りの評価額二四四円

(イ)と(ロ)の金額の単純平均価額である(325×0.5+164×0.5 = 244)

(ニ) 新株引受権の価額九七円(一株当り)

本件は、倍額増資の五〇円払い込みであるから、一株当りの新株引受権の価額は九七円((244+50×1)+(1+1)-50 = 97)となる。

(四) よつて、被告は、一株当りの新株引受権の価額九七円に、原告が取得した株式数二〇万株を乗じた一九四〇万円を、新株引受権の価額とし、法二二条二項に基づきこれを本件事業年度の益金に算入し、建物圧縮損の損金不算入分九万〇一〇〇円を損金から控除し、原告の本件事業年度法人税の所得金額を五二二〇万〇四八三円として、本件更正処分をしたものであつて、なんら違法ではない。

第四被告の主張に対する原告の認否及び反論

一  被告は、原告の本件更正通知書に附記された理由は不備である旨の主張に対し、すでに準備手続を経ていることから、右主張は民事訴訟法二五五条によりもはや許されない旨主張するが、行政訴訟は、職務探知の行なわれる手続で、更正通知書に附記した理由の不備等強行法規違背の主張などは、裁判所において当事者の主張の有無にかかわらず調査しなければならない事項で、これらの事項に関する当事者の主張は裁判所の職権の発動を促すに過ぎない。また、更正通知書附記の理由不備の主張は、事実問題としては確定しており、その当否は、裁判所の法一三〇条の法規解釈のみにかかつており、そのために訴訟の遅滞を来たすことはあり得ない。従つて、右被告の主張は失当というべきである。

二  被告の主張2の(一)の冒頭部分の事実中、三和商会の本件新株の発行は、実質的には株主以外の者に対し新株引受権を与える方法でなされたものであつて、原告も新株引受権を付与されたものであるとの点は否認し、その余の事実は認める。

三  同(1)の事実は認める。三和商会は、定款により株主に対し新株引受権を与えていたものの、本件新株発行においてはかなりの失権株の発生が予想されたため、株主の新株引受権を排除し、払込の確実を期し得る縁故募集の方法をとつたものである地方の中小企業(非上場会社)における新株発行は、縁故募集によるのが常態である。そして縁故募集も公募の一態様であることにかわりはない。その場合、発行価額は、市場価額がないため、いきおい額面額とせざるを得ないのである。なお、三和商会には特に有利な発行価額で新株を発行する認識はなかつたものである。

四  同(2)の新株引受権付与契約の締結及び同族会社であるとの事実は、いずれも否認する。三和商会が株主総会の数日前に原告及び三和電機商事と話合をしたのは、単に引受予定株数を事前に打診したにすぎない。そもそも新株発行に関し具体的事項が決定する前に、新株引受権付与契約を締結することはあり得ないのである。

五  同(3)の事実は否認する。三和商会の臨時株主総会における決議は、定款記載事項である発行予定株式総数を変更するための特別決議であつて商法二八〇条ノ二・二項所定の特別決議をしたことはない。もしそうであるならば、〈1〉特に有利な発行価額で新株の発行を受ける第三者の範囲、〈2〉その株式の額面無額面の別、種類、数について決議しなければならないのに、そのような決議はなされていないのである。

六  同(二)の(1)の主張は争う。施行令三八条一項二号の規定は、単に有価証券の取得価額を明確にしたにすぎず、受贈益を益金に算入してこれに法人税を課す趣旨のものではない。

七  同(3)の主張は争う。施行令三八条一項二号の規定は、その文言上新株引受権付与の方法により特に有利な発行価額をもつて新株を発行する場合のみを対象とした規定である。被告の解釈は拡張もしくは類推解釈であつて、課税要件厳格解釈の原則に照らし許されないものである。なお、原告は特に有利な発行価額で新株を引き受けたことはない。「特に有利な発行価額」とは、「適正な発行価額より特に低い価額」をさすものと解すべきであるが、適正な発行価額であるか否かの判断にあたつては、三和商会のような地方の中小企業における新株発行の場合、発行予定新株の全部につき払込を得るためには、発行価額を相当低い価額に定めなければならないことを考慮する必要がある。

八  同(三)の(1)のうち、三和商会の株式が非上場株式で気配相場も売買例もないことは認めるが、その余の主張は争う。時価は、相場や気配相場があつて初めて認識されるものであつて、被告が、財産評価通達に基づき、三和商会の株式の時価を算定していることは不合理である。非上場株式で気配相場のないものの価額の評価は、会社の資産、収益、配当状況、発行済株式数、新しく発行する株式の数、類似業種の市場価額のみならず、会社の将来性等総合的に考察してなさるべきである。三和商会は農業関連企業として将来性は必ずしも明るいものではないのに、この点を考慮しないで会社資産の状況にのみ重点をおいた被告の評価方法は正当とはいえないのである。

九  同(2)の(イ)ないし(ニ)の各金額はいずれも争う。

1  同(イ)について、被告は、純資産価額の算定にあたつて、含み資産を有するとの前提にたち、借地権を評価している。しかも、借地権についても期間経過によつて価額の減少をみるのが常識であるのに、被告は、単にこれを更地価額の六〇パーセントとして、実に三七四九万三七二四円と高く評価している。また、不良資産についても評価換えを行なうべきであつて、貸倒引当金相当分は、回収不能が現実化しているものと認めて、総資産価額から控除すべきである。

2  同(ロ)について、類似業種の選択に当つては、事業の種類の同一性、資産構成、収益状況、資本額等の類似性を厳格に考慮すべきであるのに、被告はこの点につき何ら配慮していない。被告が選択した標本会社の業種は、一般機械器具、自動車、自動車部品、同付属器、輸送用機械器具、精密機械器具、電気機械器具等すべての機械器具の卸売業を含むもので、評価会社である三和商会の業種(農業用機械器具卸売業)と類似するものとは認め難いのである。

第五被告の反論

一  原告の反論五について、新株引受権を受ける第三者の範囲については、三和商会と原告及び三和電機商事との間においてすでに実質的に確定されていたことは前記のとおりであるし、額面無額面の別、種類、数については、「その株式は、額面かつ普通株で、発行株式数は二四万株とする。」と明確に決議しているのであるから商法二八〇条ノ二、二項所定の要件に欠けるところはない。

二  同九の1について、借地権は税法上減価償却をなすべき資産ではない(所得税法二条一八号、一九号、同法施行令六条及び法二条二三号、二四号、施行令一三条)すなわち、土地の貸借人は、現行の法律上厚く保護されているものであるから、むしろ土地そのものと同様の性質を有するもので、時の経過にともなつて規則的に減価するものではない。

また、貸倒引当金は、将来の貸倒れに備えてあらかじめ引当を行なうものであるが、回収不能であることが実現したものでないから総資産価額から控除すべきものではない(財産評価通達一八八-評一一八六(5)参照)。従つて、被告が本件純資産価額を算定するに当つて、借地権を非減価償却資産として扱い、貸倒引当金相当額を総資産価額から控除しないのは正当である。

三  同九の2について、原告は標本会社の選択が不当だと主張するが、被告は、類似会社比準価額方式によつたものではなく、類似業種の統計数値に合理性を求める類似業種比準価額方式によつたものである。その根拠は、三和商会のような取引相場のない会社と、事業種目の同一である上場会社を選定することは現実的に不可能であること、仮に、事業内容が全く同一である上場会社があつたとしても、機械器具卸売業に属する他の標本会社より三要素において類似性が劣れば、個別的比較としては類似しないこととなるのであつて、事業内容の同一性のみを論ずることは意味がないことになる。そして、類似業種比準方式においては、相当数の標本会社の三要素及び比準株価を平均することにより、上場株式に特有の流通性、投機性の株価に及ぼす個々の標本会社の内容の特異性を捨象し、類似する業種を営む上場会社一般の統計的、大数的傾向としての平均値比準に合理性を求め株式の評価を行なうものであるから、被告が具体的計算において標本会社の一株当りの価額及び三要素を国税庁長官が発表した「類似業種比準価額計算上の業種別平均値」によつたのは合理的である。

第六証拠 〈省略〉

理由

一  請求原因一の本件更正処分等の経緯については当事者間に争いがない。

二  そこで、本件更正処分の違法事由について判断する。

1  原告は、本件更正通知書(〈証拠省略〉)に記載された附記理由は法の定める要件を満たしていないから違法である旨主張し、被告は、右主張は準備手続終結後の口頭弁論期日においてなされたものであるから、民事訴訟法二五五条によつて許されないものである旨主張する。ところで、本件記録に照らせば、本件訴訟は昭和四六年一一月一〇日から昭和四九年六月一二日までの間一七回に渡つて準備手続期日を経ているのに、右原告の主張は昭和五二年一月一七日の口頭弁論期日において初めてなされたものであつて、右準備手続の要約調書にこれが記載されていないことは明らかである。しかしながら、原告の右主張は、青色申告にかかる法人税の更正をする場合にはその更正通知書に理由を附記しなければならない(法一三〇条二項)のに、本件更正通知書に記されている理由の程度では右法の要求する程度の理由を満たしているものとはいえないとの主張であるから、右主張を判断するには、右更正通知書の更正の理由欄の記載のみによつて、これが法の要求する程度の理由を附記したものといえるか否かを判断できるのであり、右のほか更に証拠調を要するというものでもないから、右主張が準備手続終結後の口頭弁論期日においてなされたからといつて、著しく訴訟を遅滞させるものであるとは認められない。してみると、原告の右主張は、民事訴訟法二五五条一項但書の「著ク訴訟ヲ遅滞セシメザルトキ」に当り、許されるべきものであるというべきである。被告のこれに反する主張は採用し得ない。

2  そこで、進んで本件更正通知書に記載された更正の理由附記の適否について判断する。

法一三〇条二項が青色申告にかかる法人税につき更正をする場合には更正の理由を附記すべきものとしているのは、更正処分庁の判断の慎重、合理性を担保してその恣意を抑制するとともに、処分の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨に出たものであり、従つて、それはまた、申告にかかる所得の計算が法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿書類の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障したものである。右のような理由附記制度の趣旨にかんがみれば、帳簿書類の記載を否認して更正をする場合において更正通知書に附記すべき理由としては、更正にかかる勘定科目とその金額を示すほか、そのような更正をした根拠を右帳簿書類の記載以上に信憑力のある資料を摘示することによつて具体的に明示することを要すると解するのが相当である(最三小判昭和五一年三月八日民集三〇券二号六四頁参照)。そこで、これを本件更正通知書に附記された理由についてみるに、原告は、青色申告の承認を受けた法人であり、本件事業年度法人税について確定申告をしたところ、被告はこれを更正したこと前記のとおりであり、〈証拠省略〉によれば、被告は本件更正に際し、本件更正通知書の更正の理由欄に更正をなした理由として、「貴法人備え付けの帳簿書類を調査した結果、所得金額等の計算に誤りがあると認められますから、次のように申告書に記載された所得金額等に加算減算して更正しました。1株式会社三和商会の増資にあたり取得した二〇万株に対する新株引受権一九四〇万円は受贈益と認め益金に加算します。」と記載していることが認められる。右の記載によれば、本件更正処分は、原告が三和商会の増資に当り取得した新株二〇万株は、三和商会より新株引受権を付与されたものであり、これによつて取得した価額と通常の価額で取得した場合との差額一九四〇万円は三和商会より原告に贈与されたものと認められるから、これを益金として加算したものであることがうかがえるのであるが、本件更正処分は、単に帳簿書類の記載の誤りや計算の誤りを理由とするものではないのであるから、その理由の記載においては、右更正の基礎となつた新株引受権の付与を認定したことの理由及び新株引受権一九四〇万円という金額がいかなる根拠、基準に基づいて算出されたものであるかを具体的に記載すべきであり、それによつて原告に対し、その取得した新株が何故一九四〇万円もの受贈益を生ずることとなつたのかを明示すべきであつたのに、右記載からこれを知ることは全く不可能である。してみると、右の程度の記載では、理由としてはなお不十分であつて、法の要求する理由附記があつたものということはできないというべきである。被告は、法の要求する附記理由は本件更正通知書に記載された程度で足ると主張するが、右に述べたところから、右被告の主張は採用し得ない。

右に述べたところによれば、本件更正処分は、新株引受権の受贈益一九四〇万円を認定し、これを原告の本件事業年度の所得金額に加算した点について理由附記不備の違法があるといわなければならない。

三  なお、本件更正処分中、建物圧縮損相当分九万〇一〇〇円を原告の本件事業年度の所得金額に加算した点については、原告もこれを争わないものである。してみると、原告の本件事業年度法人税の所得金額は、前記確定申告額三二七一万〇三八三円に右九万〇一〇〇円を加算した三二八〇万〇四八三円となるというべきであるから、被告の本件更正処分中、右金額をこえる部分は取り消しを免れないというべきである。

四  よつて、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由があるからこれを認容することとし、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石川良雄 松本朝光 粟栖勲)

別紙〈省略〉

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